SUGAI DENTAL CLINIC KAMAKURA SUGAI DENTAL CLINIC KAMAKURA

SUGAI DENTAL CLINIC KAMAKURA

Case

義歯を用いたインプラント難症例
  • インプラント症例
  • 義歯症例
  • 難治療症例

某大学病院で治療中の患者である。抜歯処置後義歯を装着したが最初から高く感じていたので調整の度に高いと訴えたところその都度、義歯を削り低くした。結果、治療前は全て見えていた下顎の前歯が全く見えなくなった。同時に摂食・発音機能に障害を生じた。当院初診時には顎関節部の疼痛も生じ著しいQOLの低下を訴えた。その後、歯周基本治療と同時にインプラント治療を併用し高径の回復を図った。その後上顎左側臼歯部根尖相当部に自発性の疼痛を訴える様になった。CT撮影したところ、当該部の側切歯、小臼歯、大臼歯の根尖病巣が確認され、それに近接した埋伏犬歯にも感染が疑われた。そのため、当該歯3本と埋伏犬歯を一度期に抜歯することとした。
患者はマリンスポーツを趣味としており、固定式の通常のインプラントに交換する事を希望した。しかしながら、埋伏犬歯及び当該3歯を抜歯すると抜歯窩は非常に大きくなりその後の処置が非常に困難になることが予想され、固定式インプラント補綴は不可能であると考えた。そのため抜歯と同時に骨移植剤にて抜歯部位を填塞しインプラントを埋入することにより歯槽提の高さを、そして義歯により外形を保持した状態で骨移植剤のリモデリングを図る事とした。その間、数年はインプラントを利用したマグネットを用いた義歯を用いることとし、骨移植剤のリモデリングが完了時には新たにインプラントを追加埋入し固定式インプラント補綴に移行することとした。しかしながら、治療終了後には機能的にも審美的にも問題なく固定式インプラント補綴への変更希望は無くなっていた。

  • 治療前
    主訴はかみ合わせが高く、治療に行くたびに前歯が見えなくなってみっともない。であった。食事も非常に時間が掛かり常に食いしばっており顎も痛いとの事であった。over jet,biteともに大きく下顎前歯は見えない。
  • 治療後
    咬合高径の回復を図り、審美的問題、摂食機能及び不定愁訴も改善された。
患者様基本情報
  • 年代 50歳代
    性別 男性
  • 主訴 かみ合わせが高く、治療に行くたびに前歯が見えなくなってみっともない。かみ合わせが高く、治療に行くたびに前歯が見えなくなってみっともない。
  • 自覚症状 かみ合わせが高い。顎が痛い
  • 治療期間 3年
    通院回数
  • 治療費用
治療経過
初診時 長期間大学病院に通院している間に下の前歯が見えなくなった。下顎前歯は全く見えない。

初診時側方面観
義歯の装着時と非装着時の側方面観である。低位咬合。クリアランスの少なさが良く分かる。

初診時咬合面観
天然歯、人工歯の著しい摩耗、補綴物における多数のシャイニングスポットが認められる。

左上小臼歯部、下顎前歯部の著しいファセット及び咬耗の状態。

初診時のペリオチャート
BOPは全ての歯に認められPDが6mm以上の部位が散見される。全額中等度歯周炎及び局所重度歯周炎である。

歯周基本治療終了後の左下臼歯部インプラント治療。
咬合高径挙上の為、歯周基本治療において、上下額に対し暫間補綴処置を行った。 咬合挙上は昔の大学病院での治療前の願望,咬合状態がはっきりわかる写真を持って来てもらい、その写真を拡大し挙上量を決定し一気に挙上した。 左下のインプラント1次オペは既に済ませており上顎暫間義歯、下顎暫間補綴で咬合挙上した状態に合わせ最終補綴を行った。

左下インプラント治療終了時 上下暫間補綴処置、左下インプラント治療終了時。咬合挙上の結果、下顎前歯は見えるようになった。

左下インプラント最終補綴処置 インプラント治療で最も重要な要件は、そのインプラントを患者自身がいかに容易に管理できるのかという事である。固形空隙の狭い歯間ブラシが使いにくい補綴物は最悪である。常に患者の立場に立って、自己管理が容易な補綴物のデザインを考えなければなれない。
歯周基本治療終了時のPDが4mm以上の部位
左上臼歯部はPDが8mm、9mmと深い部位が多い。

左上臼歯部に自発性の疼痛を訴えるようになった。
22,24,26の根尖相当部に埋伏犬歯が認められる。 いずれの根尖周囲には投下増が認められ感染が疑われる。

当該部位のCT画像 当該歯の周囲には透過像が認められる。26口蓋根は上顎洞に埋入している。 埋伏犬歯の根尖部は唇側骨の外側に位置している。 CTからの情報で、手術後どのように最終補綴処置を行うかが思いつかなかった。

当該部位の補綴物撤去後の状態 当該部位には固定式インプラント補綴はリスクが大きく不可能と判断した。術後、当該部位全体の喪失容積は約10ccとした。これだけの喪失容積だと義歯による最終処置も、患者の銀行副頭取と言う避けて通れない社会的要件を鑑みると、十分なレベルのQOLを回復させることは困難である。最終補綴処置を患者の社会的要件のみならず患者のライフスタイル、趣味などから慎重に多角的に検討した。結果以下のような治療計画の概略をプランニングした。1.手術当該部の喪失部分には骨移植を実施する。2.当該部の高さを保持するためインプラントを埋入する。その時、できるだけ弁全体にテンションのかかった状態での高径維持のため抜歯窩底部に、それぞれにあらかじめフィクスチャーのヒーリングキャップに埋入深度を合わせ緊密に硬く骨移植剤を敷いておく。このインプラントはテンティング インプラントの意味合いで用いる。3.埋伏犬歯を含め、なるべく周囲組織を傷つけないよう抜歯を完了させる。4.フラップはブーザーズフラップとする。5.縫合前、弁を復位させ抜歯窩の穴の開いた歯肉弁を吸収性コラーゲン膜で緻密に閉鎖する。なお、ここで使用する吸収性膜は事前にCT画像より当該歯マージン部の外形をフィルムに転写しそれを用いて精密に切り出して準備しておく。6.骨移植剤はあらかじめ術前に患者から採血した血液より精製した多結晶板血漿PRPにて埋入直前にドレッシングする。
側切歯から第一大臼歯迄、切開剥離が必要な患部は非常に大きいため、通常の切開戦では対応できない。従って、本症例では側切歯から第一大臼歯迄唇側MGJを超えて一次切開を加え、歯槽頂に向かって部分層弁で進み、歯槽頂部から全部層弁で剥離した。すなはち、ブーザーズフラップを用いた。22,24,26の各歯頚部の形態をCT画像よりフィルムに転写し術後抜歯窩周囲歯肉に縫合することとした。
埋伏犬歯 埋伏していた犬歯は周囲骨にダメージを与えないよう分割抜歯した。
掻把終了後 抜歯部位の骨面の不良肉芽を可及的に掻把し止血した。当該部位の骨面は第二大臼歯の骨頂部に比較して約20㎜低位にある。当初、プラン立案前にはこの状態で手術を終了しても最終補綴処置を想像した時、患者のQOLを下下げないで上げることのできる最終補綴処置は思いつかなかった。
第一大臼歯の根尖相当部 第一大臼歯の混戦相当部にはシュナイダー膜が確認できる。

歯肉弁にある抜歯窩閉鎖用膜
事前にCT画像よりフィルムに転写し、それを基に吸収性コラーゲン膜を切り出しておいた。

骨移植材
填入直前、骨移植剤を患者の血液より生成した多血小板血漿によりドレッシングし用いた。

インプラントの埋入 インプラント埋入震度は先に移植材を埋入し、ヒーリングキャップの高さに埋入深度を合わせた。 初期固定はなく、全てフローテイングであるが全て移植材保持のためのテンティング インプラントとして埋入した。
移植材填入後 移植罪は十分に緊密に填入した。

歯肉弁を復位させ確認
インプラントの高さ及び移植材の量を確認した。この後、抜歯窩に吸収性膜を縫合。

縫合終了時 抜歯窩には吸収性膜が緊密に縫合されている。

6か月後の状態
一部、埋伏犬歯を抜歯した部位の陥凹が大きく再度、骨移植を計画した。

再骨移植 当該部歯肉を口蓋側より大きく剝離した。歯槽長直下までは部分層弁でその後は全部層弁にて剥離した。
移植材の填入 剥離後、PRPをドレッシングした骨移植剤を填入し、吸収性膜をヒーリングキャップで固定した。

縫合

当該部位の縫合時、穴の開いたフィクスチャー開口部には結合組織移植を行ない、口腔内との交通を遮断した。

反対側

反対側のインプラントオペ時である。左上側切歯から右上第二大臼歯部迄ブーザーズフラップにて剝離した。その後、前歯部には自家骨移植を併用し、4本のインプラントを埋入した。右上中切歯のアタッチメントの付いた根は抜歯し、インプラントを抜歯即時埋入した。その際自家骨移植も併用した。

右上に埋入されたインプラント 左が右上中切歯、一番右が第二大臼歯部である。

インプラントを利用したマグネットデンチャー 最終補綴処置
上顎の6本のインプラントにマグネットを用いたチタン床義歯である。通法では4本のマグネットを用いるのが通法であると思うが本症例においてはより高度で強固かつ確実な機能回復を期待して6本のマグネットとした。患者の年齢、銀行副頭取と言う社会的職業的立場を考えた時、通常よりもより高度で強固かつ確実な機能回復が求められる。すなはち、確実な発音機能、快適な摂食機能、自然な審美的要件である。これらの機能要件の一つでも確実でない場合、本症例の当初の目的は環椎されなかったものと考えその臨床的意義の多くはスポイルされる。そのため、6本のマグネットを用いチタン床外形を可及的小さくデザインし、口腔内容積をなるべく大きく保持し、会話時の舌運動を阻害しないよう努めた。その結果、患者は今回の一連の治療に対し、職務上の会議、会食などにおいて十二分を上回る機能を発揮しているばかりでなく、期待していなかった趣味のマリンスポーツにおいても何ら気にすることなく海中で楽しむことができ法外な嬉しい誤算であったとの事であったと伝えてきた。本症例は対応に苦慮した困難な症例であったが、十分な機能回復、本人が大変悩んでいた審美的問題、付随する不定愁訴等の問題が解決でき十分QOLの回復が図れた。

上下咬合面観
上顎チタン床義歯は、患者が職務上、英語の会話が必須であったため可及的に小さく口蓋側を薄くすることに努めた。 この時点では当初患者が希望した固定式のインプラント補綴への変更希望はなかった。

8年後
メインテナンス時 遠方に転居したためメインテナンス期間が長くなった。上顎は全く問題なく機能している。下顎前歯部は車のハンドルにぶつけ脱離した後、近医にて調整・再装着してもらったが違和感があるとの事。治療の為紹介状にて治療依頼した。 上顎に関しては全く問題なく経過しているとの事。咀嚼機能や発音機能に関しては問題ない。

この症例の治療のメリットについて

大学病院での治療中

この症例の治療のデメリットについて